中国の「漢化組」をご存知ですか?|翻訳コラム

「漢化組」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。
中国で有志ボランティアによる中国語ローカライズを行うこの組織。その概要をご紹介します。

ボランティアで中国語版を制作するローカライズ集団

「漢化組」はネット上の有志ユーザーで構成され活動を行うボランタリーな組織。正規版でローカライズされていない作品(主にはゲーム)を中国語にローカライズするために活動しています。
(企業内で中国版ローカライズを行う部門を「漢化組」と呼ぶ場合もありますが、本記事ではボランティアで中国語版を制作する組織について記載します)

“漢化”に携わる人は自分が従事している作品が好きなので、主に無償ボランティアとして活動。漢化した作品主にはオンラインストレージでアップロードして発表されます。ゲームのプラットフォームはPSP、3DS携帯ゲーム機からPS3、Wiiなど家庭用ゲーム機まで多岐にわたります。

分業化された組織構成

漢化組は通常、以下の構成で活動しています。

  • 監督:人を集め、組織を立ち上げる人です。
  • プログラマー:ゲーム本体をクラックし、テキストと絵を取り出します。
    また、翻訳したあとテキストをゲーム本体にパッケージします。
  • 翻訳:ゲームテキストを翻訳します。
  • 校正:翻訳訳文の誤字脱字を訂正します。
  • 潤色:校正した訳文の不自然を直し、脚色します。
  • 修図:ゲーム中に現れた図の外国語を中国語に編集します。
  • テスト:漢化したゲームのバグ、未漢化テキストや図があるか否かをテストします。

分業が進んでおり、オンラインでやりとりをしながら漢化を進めていきます。

「中国語でコンテンツを!」という想いが生んだ活動

サイト上ではコンテンツのニュース記事などもアップされ、交流の場になっている。

漢化組は、中国語版のゲームを遊びたいというユーザーの強い欲求から生まれたといわれています。
中国では昔から海賊版ゲームが流行していました。そのため、正式版を供給していた大量のゲーム会社が倒産、中国市場から退出を余儀なくされます。その結果、中国人プレイヤーが中国語対応しているゲームを遊ぶことができなくなりました。
依然として大量の中国人プレイヤーが海外で売れている良いゲームで遊びたい欲求を持っているにも関わらず、英語や日本語能力が不足しており内容を理解できない現状に陥ったのです。
漢化組はこうしたニーズを背景に徐々に現れ始まりました。
最初期の漢化組は海賊版を入手し翻訳し、漢化した海賊版の中国語版本体をネットで発表するようになりました。(しかし、後述するように最近ではこの現象が徐々に少なくなくなっています)

より順法的な活動やゲーム会社とのコラボレーションが進む

海賊版のローカライズを行うところから始まった漢化組ですが、最近だと少しずつ状況が変わってきています。
その背景にあるのが近年、海外のゲーム会社がどんどん中国市場に再参入している流れです。こうした流れの下、オフィシャル版も中国語に対応し始めています。これにより海賊版を取り扱う漢化組の需要はどんどん減っています。さらに最近、従来から存在していた中国の法律に基づく取り締まりが行われるようになり、国民のコンプライアンス意識が強くなってきました。こうした背景により従来のように漢化した海賊版を写するのではなく、正規版を購入したユーザーを対象に中国語化するための「漢化パッチ」を漢化組が制作し配布する例増えています。
一方で、民間漢化組とゲーム会社が連携する例も少ないながら出てきています。一例ですが、2015年に扑家漢化組はソニーとマイクロソフトからのゲーム翻訳仕事と頼まれたと報告しました。正規版の購入とそれに対応する漢化組によるバッチ配布という形が一般化するに伴い、民間漢化組とゲーム会社のコラボがどんどん普及になるするかもしれません。

いまだに法律的にはグレーな部分も残る

漢化組が完全に合法的でクリーンな存在になったわけではありません。
現在、中国の「中華人民共和国著作権法」では個人で利益を求めない、交流や研究を目的とした作品の発表は法律には違反していません。しかし、漢化バッチ自体は無償配布されていても、ダウンロードサイト自体が得ている広告収入をどうとらえるか?という問題はあるでしょう。また、いまだに残る漢化された海賊版をネットでシェアする行為自体は原作者の権利を侵害することは否めません。今のところ多くのゲーム会社まだはこの行為を追及してはいませんが、今後こうしたことが問題となる可能性はまだまだ存在しています。

(記事執筆:Tonyembers 編集:野口哲正)

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